マイクパフォーマンスの天才、クリス・ジェリコ。
プロレスにおけるマイクパフォーマンスの多くは対戦相手を貶して自身の凄さを主張することが多いのですが、ジェリコのマイクは相手を真っ当に評価しつつ、それと比較したうえで自分の方がどれだけ偉大な存在であるかを主張することが多いです。
そんなジェリコが若手時代に学んだ重要な教訓とはいったい何のなのか?対戦相手を貶めすぎることの危険性、そして「老いぼれに負けたらただの負け。勝ってもただの老いぼれに勝っただけ」という哲学を、自伝「A Lions Tale: Around the World in Spandex」中で披露しています。
クリス・ジェリコ:
俺は重要な教訓を学んだんだ。プロモーションの発展における三つの画期的な瞬間の最初の一つだ。ブルドッグ(・ボブ・ブラウン)との初対戦についてのインタビューを受けた時、彼がどれだけ年老いて鈍くなったのかについて話していた。彼を完全に貶めたんだ。
それがかなりいいものだと思っていた。だが、控え室に戻ると、ブルドッグがみんなの前で俺を止めたんだ。
「おい、何をやってるんだ?ああ俺は確かに老いぼれだ、みんなが知っている。でも考えてみろ。
もし俺がお前を倒したら、お前の負けだ。お前は老いぼれに敗れたことになるんだからな。そしてもしお前が俺を倒したとしても、お前が俺に勝ったことにはならない、なぜならお前はただ老いぼれを倒しただけにすぎないからな。
もしお前が俺の経験について語ったうえで、俺がズルしてお前に勝ったなら、少なくともお前は経験豊富なベテランに倒されたことになる。 そして、もしお前が俺を倒したらその時お前は経験豊富なベテランを倒したことになる。現状お前は自分の首を絞めている。 どちらにしても、お前は愚か者に見えるぞ」
彼はぶつぶつと自分に言い聞かせながら去っていった。そして、俺は彼が正しかったことに気づいた。プロモーションについて学んだ最初の大きな教訓(ペンを用意しとけよ、子供たち)は、「決して完全に対戦相手を貶めてはいけない」ということだった。
お前たちは冗談を言ったり、彼らを侮辱したりすることができる。でも、ある程度彼らを評価しない限り、お前はただ自分の首を絞めているだけになるからだ。
(引用:クリス・ジェリコ自伝「A Lions Tale: Around the World in Spandex」)
また、新日本プロレスに参戦した時のインタビューでもこの時のエピソードとそこで得た教訓について語っています。
ぼくがルーキーだったころ、カルガリーのTVテーピングでこんなことがありました。対戦相手は“ブルドッグ”ボブ・ブラウンという大ベテランでした。ぼくはマイクを持って「おい、オールド・マン! この年寄り! ジジイ!」とアピールしました。
そのあとの試合でぼくは負けた。ぼくはぼく自身が揶揄したオールド・マン、年寄り、ジジイに負けたということです。ぼくがその試合に勝ったとしても、ぼくはオールド・マン、年寄り、ジジイに勝ったことにしかならない。どちらにしてもぼくのコメントではダメだったのです。It doesn’t help either way.
ぼくは内藤に対して「キミは新日本プロレスのビッグスターだ」「キミは現代のベスト・パフォーマーだ」とそのポジションとステータスを評価したうえで「でも、オレはそういうキミに勝ったぞ」「オレのほうがベターだぞ」と発言する。対戦相手を評価し、その試合の意味、その試合結果の意味するところをきっちりとオーディエンスに伝えることが重要なのです。このロジックはぼくの28年のキャリアで培われてきたものです。
引用元:新日本プロレス
現在のプロレス界一とされるクリス・ジェリコのプロモーション哲学はさすがですね。プロレスにおいて普遍的に通用する考えだと思います。
そんなクリス・ジェリコですが、現在は自身のユニット『ジェリコ感謝協会(JAS)』の崩壊の危機に直面中。次週の番組で声明を出すと発表しています。